弱い者いじめ

 世間では、ニュースなんかを聞いていて腹が立つと直ぐに当事者に非難の手紙を送ったり、嫌がらせの電話を掛けたりする者がいる。対象は事件の犯人自身よりもその親であったり、親族であったりする。時には被害者の方に非難が行ったりする

 ニュースなどを見て、それぞれがそれぞれの感想を持つのは自由であるが、感情に任せて直接関係の無い者や被害者にまで嫌がらせをするのは信じられない。そんな事をするのは日本国民の極一部だとは思うが、情けない話である。

 斎藤貴男著「分断される日本」角川文庫を読んでいたら、前の随筆で少し紹介したハンセン病回復者の黒川温泉宿泊拒否事件で菊池恵楓園に送りつけられたという手紙や封書の一部内容の記載があったので、ここに抜粋する。

何も仕事せず、国の世話になり 金ばかりもらい そこで早く 国の為 死を待て! 水俣病、スモン病と一瞬 いばらず 早く氏ね!>(鹿児島局の消印)

あなた方は、税金で運営される施設で生活していますね。差別(区別)されて当然です。自己中心的な現在の日本の形をあなた方の行動で感じました。もうやめましょうよ、みっともない行動は・・・・・・報道を見る度、不愉快ですよ。納税者より。

今までのライ患者に対する偏見のしっぺ返しに、居丈高に人権を振り回し、反論できぬ相手をいたぶるのは朝鮮人がよく用いる手で汚いやり方だ。/古人曰く、人を呪えば穴二つ、と。身分を明かさぬ無礼を、許されたい。>(静岡市)

しかとよめ、ライ病はハンセンじゃない ライはライ 人のいやがる病人じゃ/クサイさうじしてもクサミは取れないお前らは死んで一人前 もう書くのがイヤらしい。/鉄砲のタマは前からばかり飛んでこんぞ 後ろも気をつけろ>(飯塚市)

皆様に不足しているのは<感謝>と<謙虚>の心ですよ。わかりますか。皆様の医療費、生活費は我々労働者が経済活動をした血と汗と涙の結晶、税金ですよ。/税金で生活をしているすべての議員、役人、そしてハンセン病の皆様 これを特権階級と言うのです。/誰のお陰で飯が食べられるのか、治療が受けられるのか、素直に考えてください。/昔、金の卵と呼ばれた中学卒の労働者。<孵化しませんでした>>

政府も国民も その時代 その時々、あなた方にせい一ぱいの支援をしてきたのではないですか。/歴史をさかのぼって裁くのは思いあがりです。/テレビの御自分の言動を見て恥ずかしいとは思われませんか。一見、身体の病気より心の病気が重症の様に、みうけられます

人には色々な運命があると思います。私は貧しい家に生まれ、この年(六十一才)になるまで、一生懸命働いてきました、あなた方は、ハンセン病という 病におかされ、悲しかったり、くやしかったり、腹がたったり、たいへんな日々だったと思います、でもこれは運命ですネ。/私達も楽しいことばかりではないです。不平、不満をいったらきりがありません。もうすぐ春がおとずれます。ふりかえらず、楽しく過ごされますように>(宮崎県)

 私はここでハンセン病について述べる事が目的ではない。
 良く考えると死んだ父親も水俣病患者が裁判に立ち上がった姿を見て、患者達を非難していた。「補償金を貰っていい家を建てたりしている」とか。これも一緒である。チッソ水俣が責任逃れのためにどんな汚い手を使ってきたか。そしてその為にどれだけ被害が拡大したのか。それを知っていたら患者を非難することなんて出来るはずがない。だから知らないということは恐ろしいことなのである。

 ハンセン病問題も一緒である。とっくの昔にハンセン病は完治する病になり、隔離の必要性も無いのに国は、それを無視して隔離政策を続けた。隔離病院内では、患者の人権は完全に無視され、堕胎や去勢が当然のごとく行われた。病院には、その時の胎児のサンプルがホルマリン漬けになって残っており、どう処分するか、ちょっと前まで議論されていたように思う。

 上の手紙を書いた連中はあきれた馬鹿だが、この責任の多くは国にある国が率先してハンセン病について誤った情報を流し続け、誤った政策を続けてきたからである。どんな馬鹿な政府でも、国が言うことは正しいと信じている国民が存在するのである。

 水俣病も同様である。国から見たら水俣病患者は邪魔な存在である。企業城下町であった水俣市の住民からも虐待された。水俣病の患者の公式認定は昭和31頃であるが、実際は昭和20年代から患者は発生していたようである。その患者認定が50年以上経った現在でもまだ争われているのである。

 ハンセン病も水俣病も何の罪も無い普通の生活をしていた人々にある日突然降りかかってきたのである。その人たちを助けこそすれ、なぜ逆にいじめ続けるのか!これが情けない人間の世界なのである。

 弱い国民同士をいがみ合わせて安定した支配を行う。江戸時代の士農工商の下に穢多・非人層を作って支配した方式が現代日本でもちゃんと生きているではないか。

 良く考えると上の手紙を書いた連中は、国の操り人形なのかもしれない
 自分で勉強しないといつの間にか操り人形になる。「無知は罪」、「無関心は罪」なのである。

(2009年2月28日 記) 

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